アジアのシリコンバレーとも言われる中国のビジネス分野の話題は、日本でも盛り上がっています。経済特区・深センを中心に技術の進化やベンチャー企業の競争が激化しており、電子決済の国内普及など日本でも常に話題になっていますよね。最近ではHUAWEIの機器の輸入規制、なんかでも大きな話題となりました。
そんな中国では、日本以上にインフルエンサーマーケティングが盛んです。市場は年々拡大しており、KOL(=中国版プロブロガー、インフルエンサー)という言葉が世界で知られ始めています。しかし、中国ではグローバルなSNSの利用が制限されています。
Facebook、twitter、Instagram、LINEといったSNSからYouTube、Googleなどは利用することができません。
中国国内ではWeChat(微信)でメッセージのやりとりをしたり、電子決済を行ったり、中国版twitterであるウェイボー(微博 Weibo)が一般的に使われています。
他国に開かれたSNSを使用できないのにも関わらず、なぜ中国ではインフルエンサーマーケティングが盛んなのでしょうか? 今回の記事では中国のインフルエンサーマーケティングについて詳しく見ていきます。
1.中国インフルエンサーの市場
中国のSNS事情は上で触れたとおりで、世界中の利用者がいるSNSを利用することはできません。すべて国内のSNSを利用しているのです。日本は400億円程度の市場規模なのにも関わらず、中国のインフルエンサーマーケティング市場は年間1兆7,000億円規模だと言われています。
中国は日本の13倍の人口なので、SNSを利用する人数やインフルエンサーの数もはるかに多いことが要因として考えられます。
では中国版のインフルエンサーKOLとはどのようなものなのか? 中国にはどのようなSNSプラットフォームがあるのかを見ていきましょう。
1-1.中国版インフルエンサー「KOL」とは
KOLとはKey Opinion Leaderの略称で、もともと医療業界で多方面に影響力を持つ医師のことをさす言葉でした。最近では中国版SNSで大きな影響力をもつ人たちもKOLと呼ばれています。
インフルエンサーというと一般的にはInstagramやYouTubeなど世界的に展開するSNSを主戦場にして、影響力を持っている人たちのことを指します。KOLは中国国内、中国圏内で影響力のある人を刺す言葉なのです。
KOLは芸能人ももちろん含まれますが、一般人も数多くいます。とくにコスメや美容系、ファッションなどの投稿を専門に扱う人が多いのも特徴です。
中国におけるインフルエンサーマーケティングは、KOLを用いて行うのが一般的。文章を投稿するだけでなく、ライブ配信などで商品を販売するライブコマースも積極的に行われています。
日本のインフルエンサーと中国のKOLの一番の違いは市場規模の大きさと、人に与える影響力です。
中国は世界1位の人口で、EC市場規模は70兆円以上だといわれています。EC市場の鍵を握るのがKOL。海賊版商品などが数多く流通する中国では信頼できる商品をECで購入するのは至難の業。こうした事情からKOLが紹介する商品は信頼が厚く、世界的にもかなり早い段階でKOLによるプロモーションが行われてきました。中国では現在、ECの主流ともいえる販売方法ともなったのです。
現時点でKOLのファン(=フォローしている人)は中国全体で6億人近くにも達しており、フォロワー数が4,800万人を超えるKOLも存在します。日本でYouTubeチャンネル登録100万人というとかなりすごいですが、中国はさすが規模が違いますね。
近年の中国で注目を集めているプロモーションが「ライブコマース」です。ライブ配信を行いながらテレビショッピングのように商品を販売するのがライブコマース。テレビショッピングと大きく違うのは、視聴者が疑問に思ったことをすぐにKOLに質問できる双方向性にあります。
例えば衣類の場合はサイズ感、着心地、生地の雰囲気など映像だけでは伝わらない細かな部分を訪ねることができるのです。こうしたライブ感が受け、ECの基本的な戦略ともなっていっています。
ライブ配信が人気なことから、ライブ配信のプラットフォームも充実してきています。
次の項では中国におけるSNSプラットフォームをご紹介していきます。
1-2.中国のSNSプラットフォーム
中国におけるSNSプラットフォームは、世界で展開しているSNSプラットフォームの中国版といったものばかり。
LINEに相当する「微信(WeChat)」や、中国版twitter「微博(Weibo)」、中国版YouTube「优酷(Youku)」などです。
このほか最大のオンラインショッピングモールアリババがライブ配信プラットフォーム「淘宝網(タオバオ)」などを運営しています。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
「微信(WeChat)」は個人的な連絡などに使われるアプリです。LINEに近い機能が実装されており、LINE payに相当する「WeChat Payment」を利用可能。銀行口座を紐付けたQRコード決済です。中国ではQRコード決済が普及しているので、WeChatも合わせてかなり普及しています。
「微博(Weibo)」は中国圏でもっとも大きなSNSプラットフォーム。不特定多数と交流できるSNSで、まさにtwitterといえる機能を備えています。拡散力が高く、商品の調査や選別をする際などに、多くの中国人が情報を調べています。
利用者は7億人を超えており、公式アカウントは291万件、企業公式アカウントは137万件も存在しています。中国人だけでこれだけの利用者を獲得できるというのだから驚きですよね。
「优酷(Youku)」は動画共有サイトで、YouTubeのように動画を閲覧できます。
こうしたプラットフォームをさまざま活用し、中国のKOLは情報を発信していっているのです。
2.成功する4つのポイント
KOLに求められるのはどのようなことでしょうか?
カリスマ性
ひとつめはカリスマ性。優れた容姿だったり、センスが良かったり、人柄が良かったり。あるいは一般庶民ができないような暮らしをしている人が人気です。
スタイル
20代前半の中国人はファッショントレンド、パーソナライゼーションを追求する傾向がある一方で、スタイルを形成していないため、KOLのオススメに影響されやすい傾向があります。独自のスタイルを築いているKOLが選ぶものなら間違いない、と考えている人が多いのです。
親近感
ファンとの交流を積極的に行い、親しみやすいイメージをつけることも大切です。ファンとの距離を近くすることで、より商品が売れやすくなります。ファンにスーパースターとして見られるのではなく、「同じ人間なんだ」と感じさせることが大事だそう。
価値観の共有
ファンの間に共通の価値観を生むのが大切です。KOL側がメンテナンスを行い、ファンに共通の価値観を植え付けられれば成功です。例えば「消費な浪費ではなく、理想を目指すためのもの」といったように。ファンの価値観を都合良く変えられれば商品が売れやすくなります。
3.中国のインフルエンサーマーケティング成功事例
中国のKOLはとてつもない人気で、販売力が高いのも特徴です。一度成功するととてつもない売り上げを獲得することも可能。わずか1時間で数億円の売り上げをあげられることも。
ここからは中国で行われたインフルエンサーマーケティングで成功した事例をいくつかご紹介します。
3-1.「メイクアップ動画」を発信して9ヶ月で432万フォロワー獲得
中国には100万人以上のフォロワーを獲得しているインフルエンサーが2万人もいるそう。そのなかでもWeiboで432万人のフォロワーを獲得し、TikTokで710万のフォロワーを獲得した張凱毅さんは際立つ存在です。張凱毅さんは2017年11月28日にSNSを開始し、わずか9ヶ月後には432万人ものフォロワーを獲得しています。
そもそも生活が苦しくて、得意なメイクで何かできないか? と考えたことからセルフメディアを開始。タレントのそっくりメイクを披露したところ、あっというまに100万人以上のフォロワーを獲得できたといいます。次にフォロワー数が爆発的に増加したタイミングは、批判だったそう。批判的なコメントが大量に投稿されたことで、「怒り狂う」動画を投稿。この動画が受けて、フォロワーが急増したそうです。
こうした経緯もあって、張凱毅さんは男っぽい性格でメイクに詳しいKOLとして知られています。自分がセレクトした化粧品の店を淘宝(タオバオ)に開設し、毎月約2000万元(約3億3000万円)を売り上げているのだとか。
張凱毅さんはほかに人にはないメイク技術というカリスマ性、男っぽい発言や正確というスタイル、ファンの質問にはしっかりと答える親近感、販売する商品は良いものという「価値観の共有」を行えたことで人気となったのです。
3-2.TikTokを活用した「KOLコマース」で注文120万件超え
日本でも若い世代に人気なTikTokを活用した「KOLコマース」の例をご紹介します。
中国国内で商業価値のあるKOL2位となっている雪梨Cherie(シェイ リ)さんは自分のアパレルECショップを持っており、2017年の独身の日(11月11日)には350秒で1億元(17億円)、2時間で2億元(34億円)の売り上げ記録を作ったことで話題になりました。
中国でも人気のTikTokが2018年、タオバオなどのネットショップと連携を開始しました。TikTokのアプリ内から直接ネットショップのページへリンクを設定できるようになったため、ショートムービーを見た人が「ほしい」と思った商品をすぐに購入できるようになったのです。
人気のアプリがネットショップに対応したことで、ダブル12とは中国のオフラインとオンラインの連動キャンペーンのこと。実店舗での販売とネットショップでの販売が連動しているというのが大きな特徴で、ショッピングモールやクリーニング店なども参加するのです。独身の日ほどの売り上げではありませんが、着実に影響力は増しているそう。
2018年のダブル12では、TikTok経由のユーザーの注文件数が120万件以上になったことで大きな話題に。TikTokは主に若年層にリーチできて、コンバージョン率も高いことから今後ますます注目されていくことでしょう。
TikTokを活用するメリットは、「フォロワー同士のコミュニケーション」があること。コミュニケーションをとることで、親近感がわき、価値観の共有もしやすいため販売促進につながるのです。
3-3.「ライブ配信」活用でファンの心をつかみフォロワー数500万人獲得
中国のEC界でもっとも影響力のあるひとりが張大奕(ジャン・ダーイー)さん。
もともとモデルとして活躍していましたが、2014年にタオバオ上で自身のショップを出店。2015年には中国EC最大イベント「独身の日」に2時間で3億4,000万円を売り上げました。
フォロワーは500万人おり、ライブ配信で視聴者に購入を促しています。販売している商品は化粧品、洋服などファッション・コスメに関するもの。自分で着用したり、使用したりする様子を見せながら視聴者の質問に積極的に答えていく、というスタイルで配信を行っています。双方向にコミュニケーションをとることが人気の理由でしょう。
張大奕(ジャン・ダーイー)さんは年収50億円ともいわれており、世界でも影響力(販売額)があるインフルエンサーのひとりだといえます。
また、もともとモデルだったことから独自の世界観も人気でカリスマ性も抜群です。現在30歳を超えており、メインの利用者層と徐々に年齢が離れていっています。ファン離れが怖くなりそうですが、張大奕さんはしっかりとファンのメンテナンスも行っており、張大奕さんのファンは「考え方やスタイル」に共感しているため、ファン離れが起きていないそう。
マメに対応していく能力もKOLには求められそうですね。
まとめ
中国は世界のほかの地域と比べ、マーケットが特殊。自社製品を中国に売り込む場合はKOLを上手に活用できるか否かが鍵になるでしょう。
日本でも今後ますますライブコマースは普及していくことが予想されます。どのようにインフルエンサーを活用していくのか、中国の先行事例から学べることは多いですね。
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